東京地方裁判所 昭和55年(ワ)4418号 判決 1982年3月18日
原告兼園部毅・同力法定代理人親権者
園部清子
原告
園部毅
原告
園部力
右原告ら訴訟代理人
高崎尚志
被告
東亜運輸株式会社
右代表者
大下昭一郎
被告
瀬野邦彦
右被告ら訴訟代理人
平沼高明
関沢潤
堀井敬一
主文
1 被告らは、各自、原告園部清子に対し金五五四万一一五九円と内金五〇四万一一五九円に対する昭和五二年一一月一一日から、内金五〇万円に対する本判決の確定日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、各自、原告園部毅、原告園部力に対しそれぞれ金五一五万一一五九円と内金四六五万一一五九円に対する昭和五二年一一月一一日から、内金五〇万円に対する本判決の確定日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを二分し、それぞれを原告らと被告らの各負担とする。
5 この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一、二<省略>
三次に、本件交通事故の態様と被告瀬野の責任原因について検討する。
<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
1 車輛の状況
(一) 加害車について
原告瀬野が運転した加害車は、日野レンジャーKL五六五、四トントラックであり、全長は8.565メートル、全幅は2.180メートル、全高は2.580メートルである。本件事故日時ころ、同車は最大積載量が3.750キログラムのところ4.885キログラム超過した8.635キログラムの鋳鉄円形水道管を積載していたので、そのハンドルの切れがやや悪くなつていた。
(二) 被害車について
訴外亡芳男が運転した被害車は、マツダファミリア・プレストバンSPCVであり、全長は3.700メートル、全幅は1.480メートル、全高は1.405メートルで約八〇キログラムの積載荷重(野菜、果物その他)を加えた事故時の車輛重量は約九六〇キログラムである。
2 道路の状況等について
(一) 本件事故現場は所沢市方面から青梅市方面に北から南へ左にカーヴして通じる上下各一車線(南進車線の幅員3.9メートル、北進車線の幅員は4.0メートル)の歩車道の区別のないアスファルト舗装の平担乾燥の道路であり、現場から約二〇メートル北方に信号機による交通整理の行なわれていない交差点(以下、本件交差点という。)がある。
(二) 右交差点のほぼ中央部にアスファルト舗装が盛り上つた凸部があり、高さ約八センチメートル、長さ約二七四センチメートル、最大幅五五センチメートルである。
(三) 右本件交差点の南側にある事故現場付近の交通規制は最高速度制限は毎時四〇キロメートル、追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止、駐車禁止があり、北側は最高速度制限は毎時二〇キロメートルである。
(四) 本件事故現場は市街地に位置し、その付近の見とおしは良好である。
(五) 事故時の天候は晴である。
3 被告瀬野の運転状況
(一) 被告瀬野は、前記本件交通事故日時ころ、加害車を運転して所沢市方面から青梅市方面に向け南進中、前記本件交差点にさしかかつた。
(二) 当時、被告瀬野は、その運転車輛には前記認定のような重量超過の水道管七八本(一〇〇ミリ×四〇〇〇ミリ管六四本、二〇〇ミリ×五〇〇〇ミリ管一四本)を積載していたので、急ハンドル急ブレーキによつては荷崩れの危険があると考えていた。
(三) 被告瀬野は、時速約一〇キロメートルの速度で本件交差点に入つたところで、前方対向車線上を進行中の被害車を前方約九〇メートルの地点に見つけたが、距離は十分あると判断して右側に寄つて、交差点ほぼ中央にあるアスファルトの凸部分を跨ぐように速度を一層落して進み、被害車に対しパッシングを数回しただけで警笛吹鳴の必要はないと考えた。このころ、加害車は一ないし1.5メートル対向車線に入り込んで進行した。(なお、加害車は本件交差点と事故現場付近を中央線を越えずに正常に通過することは可能である。)
(四) 被告瀬野は、被害車が変りなく接近進行し続けてくるのを前方約三〇メートルに見て、自車線に戻るべく左にハンドルを切り、やや加速するも戻り切れず、被害車が自車の前方約6.5メートルの位置にあるのを見てハンドルによる回避は無理だと判断し、普通のブレーキをかけた。
(五) しかして、被告瀬野運転の車輛と被害車はそれぞれ右前部をセンターライン上で衝突するに至つた。衝突時の加害車の右前輪はセンターライン上にあり、右後輪外側は四五センチメートルはみ出し、同車は時速約五ないし一〇キロメートルの速度で三度の角度をとつて自車線に戻りつつあつた時である。
4 訴外亡芳男の運転状況
(一) 訴外亡芳男は、被害車を運転して北進中、前記交通事故発生日時ころ本件事故現場付近に至つた。
(二) 同訴外人は、右現場に至る前約一〇分間くらいの間(カーヴの多い道路であつた。)、一定の速度を保てず減増速をくり返し、車線内を左右にゆれながら進行していた。
(三) しかし、同訴外人が過労運転や酩酊運転をしていたこと、荷崩れ防止のための変則運転をしたことを認めるに足る証拠はない。
(四) 訴外亡芳男は、事故直前、センターライン寄りに平行して減速することもなく左にハンドルを切つて回避措置をとることもなく進行し(左に回避するとき、通過するに十分の道路幅はあつた。)、自車線に戻りつつあつた加害車とセンターライン上で自車右前方を衝突させるに至り、その後、後方に押し戻されて停止した。
(五) 衝突時の被害車の右前輪はセンターライン上に右後輪もほぼセンターライン上にあつて、速度は約三〇キロメートルであつた。
以上の事実を認めることができ<る。>
以上認定の事実関係によれば、被告瀬野には積載量の制限を超過した荷物を積んだ加害車を運転するに当り、迅速かつ適切な運転操作をしにくいのであるから、中央線をはみ出して対向車線内に進入し対向車輛の進行を妨害しないように対向車輛の動向や道路事情を注意して安全に進行すべき注意義務があるのに、漫然これを怠り、対向車の進路を妨害した過失がある。
してみると、被告瀬野は右認定の過失により後記権利を侵害したのであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負うべきである。
四被告会社は免責の抗弁を主張するが、右のように被告瀬野の過失が肯認されるので理由がない。
五前記三認定の事実関係によれば、訴外亡芳男にも対向左折大型車が中央線を越えることの予想されうる形状の交差点にさしかかり、前方を注意してできるだけ左側に寄つて進行し、交通の状況に応じて安全な速度と方法で進行すべき注意義務があるのに、これを懈怠した過失があるといわなければならない。したがつて、訴外亡芳男及び原告らの損害額の算定に際し、右過失を被害者及び被害者側の過失として斟酌するのが相当であり、その減額割合は三五パーセントと見るのが相当である。
六(一)<証拠>を総合すれば、訴外亡芳男は前記認定の交通事故により昭和五二年一一月一一日午前一一時五五分ころ心臓破裂により死亡したことが認められ<る。>
(二) 原告清子(昭和九年一一月一日生れ)は訴外亡芳男の妻、原告毅(昭和三七年一二月二六日生れ)と原告力(昭和三九年九月一七日生れ)は訴外亡芳男及び原告清子の実子であることは当事者間に争いがない。そして原告ら三名は、夫であり父である訴外亡芳男を右交通事故により死亡させられたことは前項で認定したとおりである。
七1 訴外亡芳男は右権利侵害により一個の人的損害を被り、これを構成する損害項目と金額は次のとおりである。
(一) 逸失利益 金三〇六〇万四三〇四円
<証拠>を総合すれば、訴外亡園部芳男は昭和六年一二月四日生れ(事故当時四五歳)の男子であり(この点は当事者間に争いがない。)、当時、健康で自らスーパーマーケット「そのベストアー」を経営していたものであり、本件事故に遭遇しなければ六七歳まで稼働し得、この間、労働省発表の昭和五二年ないし五五年賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表、産業計、企業規模計、男子労働者、学歴計、全年齢の平均年収額である後記計算式掲記の各金額を下廻らない収入を得、その収入の三〇パーセントを超えない生活費を要する高度の蓋然性があることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。以上を基礎としてライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して訴外亡芳男の逸失利益の現価を計算すると金三〇六〇万四三〇四円(一円未満切捨)となる。
(計算式)
(183,200×12+616,900)×(1−0.3)×0.9523=1,876,707.13………………①
(195,200×12+662,300)×(1−0.3)×(1.8594−0.9523)=1,907,894.35…②
(206,900×12+673,800)×(1−0.3)×(2.7232−1.8594)=1,908,669.75…③
(221,700×12+748,400)×(1−0.3)×(13.1630−2.7232)=24,911,033.16…④
①+②+③+④=30,604,304.39
(二) 慰藉料 金一四〇〇万円
前記認定の事実、原告園部清子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、訴外亡芳男は未成年の子二名、年老いた両親を残して本件事故により死亡したものであることが認められ<る。>
右認定事実と前記認定の本件交通事故の態様、結果その他諸般の事情を総合すれば、訴外亡園部芳男は本件事故により多大の精神的苦痛を被つたことが認められ、これに対する慰藉料は金一四〇〇万円と認めるのが相当である。
(三) 合計と過失相殺
訴外亡芳男の損害は、右(一)(二)の損害項目の金額を合計すると金四四六〇万四三〇四円となり、前記被害者の過失相殺による三五パーセントの減額をすると金二八九九万二七九七円(一円未満切捨)となる。
2 訴外亡芳男の相続人は妻原告清子、子原告毅、同原告力だけであり、相続分は各三分の一であることは当事者間に争いがない。したがつて、原告ら三名は訴外亡芳男の損害賠償請求権をそれぞれ金九六六万四二六五円(一円未満切捨)宛取得した。
3 原告清子は夫である訴外亡芳男を死亡させられ、これにより一個の人的損害を被り、その構成する葬儀費用損害項目とその金額は次のとおりである。(弁護士費用は後記する。)
弁論の全趣旨によれば、原告清子は夫を死亡させられ、その葬儀をとりおこない葬儀費用として金六〇万円を支出したことが認められ<る。>
右金額に前記被害者側の過失による相殺の三五パーセントの減額をすると金三九万円となる。
4 原告ら三名が、自動車損害賠償責任保険金一五〇三万九三二〇円を受領したことは当事者間に争いがない。
原告らは右受領金員のうち死亡に対する損害金一五〇〇万円分だけが本訴における弁済となり各金五〇〇万円ずつの弁済充当を主張する。しかしながら、ここで問題とすべき本訴請求の中心は訴外亡芳男が本件交通事故により傷害を受け、その約三五分後に死亡したことによる人的損害の賠償を請求するものであるところ、右損害賠償請求権は傷害に基づく損害賠償請求権と死亡に基づく損害賠償請求権の二個の請求権であるわけではなく、法的保護に価する法益は傷害の極限の状態である死亡に集約されるものであり、一個の法益が侵害されたものと解するのが正当であり、一個の法益侵害に基づく一個の人的損害賠償請求権があると解すべきである。そしてまた、自動車損害賠償責任保険金は、右の民法上の人的損害賠償請求権との関係では当然一個の債権に対する弁済として充当される性格のものであると解すべきである。したがつて、傷害分と死亡分に分断して右保険金の充当をなすべきであるという原告らの主張は採用できない。
したがつて、原告ら三名は右保険金を各五〇一万三一〇六円(一円未満切捨)ずつを弁済として充当すべきことになる。
5 原告らは前記権利侵害により人的損害を被り、構成する弁護士費用損害項目と金額は次のとおりである。
弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らが任意の弁済に応じないためにやむを得ず本訴の提起及び遂行を委任し、それぞれ相応の報酬を支払う旨を約していることが認められ他に右認定に反する証拠はない。しかして、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易度、前記損害項目の金額などに鑑み、それぞれ金五〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認めるのが相当である。
6 総合計
以上によれば、原告清子の有する損害賠償請求権の金額は金五五四万一一五九円であり、原告毅及び原告力のそれは各金五一五万一一五九円となる。<以下、省略>
(稲田龍樹)